次でたぶん最終話だから、多聞くん今どっちのレビューする。
2025年のアニメはさ、一年を通して何かなんとも言えない感じだったじゃん。30分枠のアニメより、5分くらいのすごい短いアニメとかのほうが面白いものを作っていた印象がある。ジークアクスとか盛り上がってたけど、今振り返れば盛り上がってたねぇ・・・というものだけが残ってるよね。
というわけで2026年はどうなるのと思ったら、やたらと気合いの入ったアニメが急に放送され始めて、そんな極端なことをされても・・・(動揺)と思ったが、気合いが入ってるだけで、うーん何とも言えないぜ・・ってのは変わらない印象。作画とかキャラデザとか音楽とか気合い入ってるのに、見ててそんなに楽しくない感じ。クオリティは高いのに、おもしれーってならない。視聴者の目が肥えてるって話もあると思うので、作り手にとって厳しい時代やな・・・とか呑気の思ったりしている。まあ『呪術廻戦』とかちゃんと話題になっててホント偉いとかはあるけれど。私も髪かきあげたし。
そういったクオリティだけはたけーぜって作品がばっこばっこな中で、『多聞くん今どっち!?』というアニメが相当面白くて本当にうれしい。
師走ゆきによる原作漫画は2021年から『花とゆめ』で連載している人気作。漫画のほうも少しだけ読んだけれど、漫画も当たり前のように面白い。けれどもアニメになってより旨味がマシマシって感じになっている。
推し活に全エネルギーを注いでる主人公の「うたげ」という女子高生が、推しである人気男性アイドル(グループ)のためにバイトで金を稼ぐぜと家事代行サービスで働いていたところ、新しく任されることになった現場がその推しの家なんだが!!??というところから始まる、いやいやそんな、ご都合主義も大概にしなよって思いながらもニヤつきが止まらないラブコメ。推しの家に合法で入れるんだから、そらもう、大変なことよ。
しかし、推しである「多聞」という男は、メディアやライブでの振る舞いとは正反対な、実は自己肯定感が鬼低いありえないほど引っ込み思案でダウナーな性格だったことが判明。自分は本当はこういう性格でみんなに嘘ついてる俺なんか消えたほうがいいですよね的なことを言われた主人公は、超強火のファンとしてブチギレ。「多聞くんは神なんだからそんなこと言ってんじゃねーぞこら」とハウスキーパーの仕事をこなしながら推しを叱咤激励しちゃったもんだから、精神的な支えになると多聞に気に入られてしまって、それってラブコメとしてマジ最高じゃんか!!!ってことにはもちろんならず、推しとして好きだけれど、ファンとしての倫理で一線を越えてはならないぞと自分を律する事になる。
この今っぽい設定が本当によく機能していて、ラブコメなのに始まった瞬間もう二人は互いのことを好いているし、それを互いが認識しているという異常な状態を、推しとファンという微妙に違う関係を重ねることによってぐぃぃぃぃぃぃぃっと引き伸ばすことに成功していて、一番ドキドキしちゃうやつをずっとできちゃうっていう、なんかすごい、ズルじゃねそれ、いいのかなこんなの、いっか、みたいな。
主人公のうたげというキャラクターが、本当に強火のファンだからこそ、一線を越えないぞっていう決意に説得力があって、ある程度安心して見られる(簡単にくっついたりしないと信頼できる)という点も本当に良い。全部が全部都合の良い設定なのに、白けさせないための工夫が周到にされていて、こんな脱法的な物語をよく思いつくなとびっくりしてしまう。
白けさせない工夫のひとつには、ラブコメのコメディの部分を強調、というかほとんどギャグみたいなものを大量にぶち込んで、作品のトーンをかなり軽するというものもある。いわゆる「リアリティライン」というものを下げる効果があって、まあこういうふざけたものだし許しちゃおって気持ちになりやすく気楽に楽しめて大変良いのだが、ここが、アニメになるともっと面白くなっているんだからすごい。
ギャグシーンは基本的に原作漫画にあるもので、どうやら原作漫画自体が連載を続けていくうちにギャグが過剰になっていってるところがあるっぽいのだが、アニメではそれをアニメとして膨らませてよりコテコテな演出を施している。あまりにギャグシーンがしっかりしているので、普通にギャグアニメとしてゲラゲラ笑って楽しめる。まじわらう。
例えばこういうのとか
このコマが
こうなる
ちょっとしたコマを、アニメでありがちなギャグシーンにちゃんとしてくれている。だから何?って思われるかもしれないが、こういうシーンを挟むことによってテンポが悪くなるアニメが本当に多く、実は演出としてかなり難しいものだったりする。これがちゃんとできている作品は意外とない。このアニメはまずそれができている。
また、このキャラのデフォルメ表現は、漫画の方で途中から使われるようになったものなのだが、そういう要素を丁寧に拾ってきてアニメを組み立てていて、丁寧な仕事をしていると感じる。そんな丁寧な仕事をしているのは永岡智佳監督。
『名探偵コナン』の劇場作品をいくつも監督をしていることで知られている人だけれど、初期の監督作は基本的にコナンファンの評価は芳しくない。が、2016年の『名探偵コナン 純黒の悪夢』で赤井秀一と安室透を観覧車の上でとっ組み合わせて一部のファン(赤安(あかあむ)ファン)を大変盛り上げたすごい人でもある。何より2024年の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』で国内興行収入が158億円、シリーズ最高を記録だとかで、まあ、なんか超ヒットメーカーなのだ。
原作漫画は300万部を超えていて人気作、その上に監督が永岡智佳。つまりこのアニメもかなり気合いの入った企画であり、そして、それがちゃんと面白いアニメになっていて、本当にうれしい。楽しいアニメを作ってくれてありがたい。
そして何より、コナンっていう大きすぎるIPでぼやけていたアニメーション作家としての永岡智佳の高い実力を垣間見ることができて良かった。永岡智佳監督といえば、個人的には『名探偵コナン 紺青の拳』というシンガポールで園子と京極がめっちゃギラギラなロマンスをするすごい変な映画を作った人だったので、『多聞くん今どっち!?』の急にやってくる色っぽいシーンとか本当に色っぽくてドキドキなんだけれど、やっぱりそういうの得意なんだなと、いろいろ繋がったりもした。紺青の拳はほんと変なんだよあれ、すごいんだよ。
まあとにかく、みんな多聞くん見ようぜ。クオリティ高いアニメってちゃんと見なきゃいけない気がして、ちょっと後回しにしちゃうんだよね・・・みたいな気持ちにならない、クオリティ高いアニメだから、本当になんか、すごいなと思う。